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  • 平鍋健児

企業内イノベーションの実現に向けた7つの提言(その1)

最終更新: 2019年7月3日

デジタルビジネスに活かすアジャイル開発(第5回)

このシリーズでは、イノベーションの「鶏卵問題」に取り組むリーンスタートアップ手法、その背景にある「アジャイル開発」の歴史、そして、日本企業での課題(ソフトウェア産業構造)について考えてきた。日本のいわゆるSIという事業領域において、これまで行われてきたユーザとベンダーによるソフトウェア開発手法が、日本の産業構造、時代的な背景、就労感などから現れて行きたこと、またその中で行われている「壮大な伝言ゲーム」について触れた。


バックナンバー

第1回「イノベーション創出では企画と開発を分離してはいけない

第2回「開発手法だった「アジャイル」はビジネス手法に進化した

第3回「ビジネスに追いつけない日本式システム開発の構造欠陥

第4回「変化し始めた日本式システム開発〜DXの波の到来とアジャイルの台頭


しかし、日本にもDX(Digital Transformation)の波が到来し、その中でイノベーションの創出には、スタートアップのような「小さなチーム」を作り、潜在顧客のニーズ探索と小さな製品開発から始めることが必要であることが認識されてきた。これは、欧米の大企業がシリコンバレーから学んだことであり、現在、日本の既存の大企業でもこの小さなアジャイルチームを作る動きが活発化している。これを前回の記事ではアジャイルの第三の波(3rd Wave)と呼んだ。


日本の大企業でイノベーションを創出するには


日本では現在でも、ウォーターフォール型の開発と、トップダウン組織構造、発注構造から抜け出せずにいる現状がある。しかし、これを続けていくことは日本の大企業の将来を危うくすると筆者は思っている。


とはいっても、大企業が既存の文化と組織の中で、スタートアップのような活動を行うことは難しい。意思決定のスピードをあげ、「試行と学習」ループをすばやく回すことは、大企業のこれまでの管理の仕方と組織間のしがらみの中では難しい(年次予算計画との整合、企画と開発の分離、予算承認、調達部門との関係、品質保証部門との関係、などなど)。


 以上を踏まえて、既存大企業の中で新しい変革を行っていくための、具体的な提言を行う。提言は次の7つである。


  1. 経営陣がアジャイルを理解し、企業文化を醸成すること

  2. 既存の情報システム部門と別に、イノベーション部隊を建設すること

  3. イノベーション部隊を既存の進捗管理から切り離し、企画と開発を一体化すること

  4. 経験のあるアジャイルコーチ、スクラムマスターを招き入れる、もしくは採用すること

  5. アジャイル開発の教育を行い、徐々に経験者をふやすこと

  6. 技術力のあるエンジニアを招集すること

  7. 技術コミュニティへのエンジニア参加を推奨し、外部交流を行うこと


今回は、まず2つについて解説する。


(1) 経営陣がアジャイルを理解し、企業文化を醸成すること

まず、イノベーション文化を醸成するには、企画・開発が一体化した組織のあり方、現代のソフトウエア文化を支えるアジャイル開発を理解する必要がある。これは、ITの技術的な問題ではなく、「働き方改革」の文脈で捉えることができる。現場の企画者、エンジニアたちにできる限り自己組織的なチーム運営を任せる。働きやすい環境を与える。ツールやマシンを買い与える。


よく誤解されるが、アジャイル開発は「無規律」ではない。むしろタイムボックスに沿って強く(自律的に)マネジメントされている。定期的な自己改善と計測を行いながら、市場にフィットした製品やサービスを作り出すための、ビジネスとエンジニアリングのコミュニケーション手法である。これを経営は戦略として利用しない手はない。イノベーションは「内的モチベーション」から発生する。世界を変えたい、と思っている人たちに権限と裁量を与えるのが一番だ。


(2) 既存の情報システム部門と別に、イノベーション部隊を建設すること

これまでの情報システム部門は、どうしてもベンダーをコントロールして計画どおりの成果を予算以内で作る(QCD)に注力してしまっていた。イノベーションの世界では「つくるべきもの」の定義を、ニーズ探索と小さな製品づくりを繰り返して行う(鶏と卵を同時に育てる)のだから、このやり方(発注・調達)ではうまく行かない。


これからは、別途インハウスのイノベーション部隊を新しく組織する必要がある。そこに固定枠の予算をとる。新子会社を作ったり、社長直轄の部署を作ることもあろう。とにかく、小さなチーム(10名以内)を、必要であれば複数作る。そして、そのチーム単位で投資する。それらをまとめて1つの部署にするのもよい。また、既存事業部署との関係を強くもつチームがあってもよい。むしろ、企業の強みを生かすためにはそうすべきだ。既存事業はその企業の強みであるはずで、そこを生かしながらイノベーションの外部関係を模索して行くのがよい。


また、その部隊は「内製」を目指すべきだ。そのためにはソフトウエアエンジニアが社内に必要になる。まず社内から募ろう。きっとよい人材がみつかる。見つからなくても、外部に単純に委託せず、ともに考えてくれるベンダーと準委任契約することを考えよう。イノベーションは、QCDの達成が目的ではない。ベンダーにリスクを負わせてはいけない。コストや営業力、プレゼンのうまさで選ぶのではなく、ともにアジャイル開発ができるよい人材を持つベンダーを選別し、信頼して付き合える関係を築こう。金額の大きな発注をするのでなく、小さな発注で信頼関係を構築しながら、ベンダーを選定していくのもよい。


(3) イノベーション部隊を既存の進捗管理から切り離し、企画と開発を一体化すること


そういったイノベーション部隊を、計画達成度の進捗管理のもとに置くべきではない。そもそも計画できないのがイノベーションである。また、新しいアイデアが10出たとして、そのうち成功にまでたどり着くものはせいぜい1つあるかないかだ。これを計画対比で進捗管理してしまったら、確実につぶしてしまうだろう。投資ファンドを運営するように、小さな投資を複数のチームに行うべきだ。(シリコンバレーの投資家になったつもりで管理、応援する


そのチームは、開発と企画の一体となった組織横断でつくり、潜在ユーザを探索する。ユーザー体験(UX)づくり、データ分析部隊も含めて一体化させる。タイミングに応じて、品質保証も一体化する。そして生き残っていくものにさらに投資する。意思決定を細かく行い、ステージ管理をして少数のイノベーションを育てる必要がある。


新しい製品やサービスが、既存のシステムと連携することはよくある。いわゆるMode-1とMode-2の連携である。その場合でも、種となる人材を既存部隊から移動し、連携を含めて企画・開発していく必要がある。


次回に残りの4つを紹介していきたい。


バックナンバー

第1回「イノベーション創出では企画と開発を分離してはいけない

第2回「開発手法だった「アジャイル」はビジネス手法に進化した

第3回「ビジネスに追いつけない日本式システム開発の構造欠陥

第4回「変化し始めた日本式システム開発〜DXの波の到来とアジャイルの台頭

アジャイルスタジオ福井では、実際にアジャイル開発を行なっている現場見学を受け入れています。ご興味があれば、こちらへどうぞ。


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